遺産である建物の相続開始後の使用等の取扱い

第0 目次

第1 当然に明渡しを請求することはできないこと
第2 一定の場合,使用貸借契約関係が存続すること等
第3 民法597条2項ただし書類推適用により使用貸借を解除できること
第4 共有物について遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合の取扱い
第5 内縁夫婦の一方が死亡した場合の取扱い
第6 共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権の帰属等

*1 使用貸借契約は,借主の死亡によって当然に終了する(民法599条)ものの,貸主の死亡によっては終了しません。
*2 共同相続人の一人が相続財産たる家屋の使用借主である場合,他の共同相続人においてなす使用貸借の解除は,民法252条本文の管理行為に当たります(最高裁昭和29年3月12日判決)から,過半数の持分が必要となります(民法252条本文)。
   また,建物所有を目的とする共有土地の使用貸借は,管理行為ではなく,処分行為であり,共有者全員の同意なき限り無効となることがあります(東京地裁平成18年1月26日判決(判例秘書に掲載))。
*3 共有物分割請求に強い弁護士HP,及びリーガルチェッカーHP「不動産を共有した場合に共有者ができる3つのこと」が参考になります。

第1 当然に明渡しを請求することはできないこと

1 共同相続に基づく共有者の一人であって,その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(=少数持分権者)は,他の共有者の協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権限を有するものではありません。
   しかし,他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると,その価格が共有物の価格の過半数を超えるからといって,共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し,当然にその明渡しを請求することができるものではありません(最高裁昭和41年5月19日判決)。
    なぜなら,このような場合,当該少数持分権者は自己の持分によって,共有物を使用収益する権限を有し,これに基づいて共有物を占有するものと認められるからです。

2 共同相続に基づく共有者は,他の共有者との協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権限を有するものではないものの,自己の持分に基づいて共有物を占有する権原を有するので,他のすべての共有者らは,右の自己の持分に基づいて現に共有物を占有する共有者に対して当然には共有物の明渡しを請求することはできません(最高裁昭和63年5月20日判決。なお,先例として,最高裁昭和41年5月19日判決参照)。
   このことは,共有者の一部の者から共有物を占有使用することを承認された第三者とその余の共有者との関係にも妥当し,共有者の一部の者から共有者の協議に基づかないで共有物を占有使用することを承認された第三者は,その者の占有使用を承認しなかった共有者に対して共有物を排他的に占有する権原を主張することはできないものの,現にする占有がこれを承認した共有者の持分に基づくものと認められる限度で共有物を占有使用する権原を有するので,第三者の占有使用を承認しなかった共有者は右第三者に対して当然には共有物の明渡しを請求することはできません(最高裁昭和63年5月20日判決)。

第2 一定の場合,使用貸借契約関係が存続すること等

1(1) 共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは,特段の事情のない限り,被相続人と右同居の相続人との間において,被相続人が死亡し相続が開始した後も,遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間,引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって,被相続人が死亡した場合は,この時から少なくとも遺産分割終了までの間は,被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり,右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになります(最高裁平成8年12月17日判決)。
   なぜなら,建物が右同居の相続人の居住の場であり,同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると,遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが,被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからです。
(2) 最高裁判所判例解説(平成8年度)(民事編)1005頁には以下の記載があります。
   本判決のいう使用貸借は、債務不履行による解除事由が生じない限り、終期(遺産分割時)まで存続することが保障されている。終期前においても債務不履行により解除することは可能であるが、どのような場合が債務不履行に当たるかについては本判決は判示しておらず、残された問題である。なお、解除をするには、持分の過半数による相続人の決議を要することになろう(最二小昭29・3・12民集8巻3号696頁)。
   本判決のいう使用貸借においては、特段の事情のない限り、相続開始前と同一態様の使用を続けることを借主の義務とする約定が付されているものと解すべきであろう。そうすると、借主たる相続人が不当な現状変更をすることは債務不陸夫となり、持分の過半数を有する相続人の決議により使用貸借契約の解除をすることができることになる。もっとも、借主は、現状変更に当たらない維持管理行為をすることはできるであろうし、借主も相続人であるから民法918条による管理義務を負うべきこともあろう。

2 不動産の共有者は,当該不動産を単独で占有することができる権原がないのにこれを単独で占有している他の共有者に対し,明渡しを当然には請求することができない(最高裁昭和41年5月19日判決参照)ものの,自己の持分割合に応じて占有部分に係わる賃料相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払を請求できます(最高裁平成12年4月7日判決)。

第3 民法597条2項ただし書類推適用により使用貸借を解除できること

1 父母を貸主とし,子を借主として成立した返還時期の定めがない土地の使用貸借であって,使用の目的は,建物を所有して会社の経営をなし,あわせて,右経営から生ずる収益により老父母を扶養する等といった内容のものである場合において,借主は,さしたる理由もなく老父母に対する扶養をやめ,兄弟とも往来をたち,使用貸借当事者間における信頼関係は地を払うにいたった等原判決確定の事実関係があるときは,民法597条2項ただし書を類推適用して,貸主は借主に対し使用貸借を解約できます(最高裁昭和42年11月24日判決)。

2  共有者の一人が他の共有者の同意を得ることなく共有物に変更を加えた場合には,他の共有者は,特段の事情がない限り,変更により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めることができます(最高裁平成10年3月24日判決)。

第4 共有物について遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合の取扱い

最高裁平成25年11月29日判決の裁判要旨は以下のとおりです。
 1 共有物について,遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合,共有者が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり,共有物分割の判決によって遺産共有持分を有していた者に分与された財産は遺産分割の対象となり,この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきである。
2 遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物について,遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ,その価格を賠償させる方法による分割の判決がされた場合には,遺産共有持分を有していた者に支払われる賠償金は,遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであり,賠償金の支払を受けた者は,遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負う。
3 裁判所は,遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ,その価格を賠償させてその賠償金を遺産分割の対象とする方法による共有物分割の判決をする場合には,その判決において,遺産共有持分を有していた者らが各自において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で,同持分を取得する者に対し,各自の保管すべき範囲に応じた額の賠償金を支払うことを命ずることができる。 

第5 内縁夫婦の一方が死亡した場合の取扱い

最高裁平成10年2月26日判決は,以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
1 共有者は、共有物につき持分に応じた使用をすることができるにとどまり、他の共有者との協議を経ずに当然に共有物を単独で使用する権原を有するものではない。
   しかし、共有者間の合意により共有者の一人が共有物を単独で使用する旨を定めた場合には、右合意により単独使用を認められた共有者は、右合意が変更され、又は共有関係が解消されるまでの間は、共有物を単独で使用することができ、右使用による利益について他の共有者に対して不当利得返還義務を負わないものと解される。
2 そして、内縁の夫婦がその共有する不動産を居住又は共同事業のために共同で使用してきたときは、特段の事情のない限り、両者の間において、その一方が死亡した後は他方が右不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当である。
   けだし、右のような両者の関係及び共有不動産の使用状況からすると、一方が死亡した場合に残された内縁の配偶者に共有不動産の全面的な使用権を与えて従前と同一の目的、態様の不動産の無償使用を継続させることが両者の通常の意思に合致するといえるからである。

第6 共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権の帰属等

最高裁平成17年9月8日判決は,以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
1 遺産は,相続人が数人あるときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属するものであるから,この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は,遺産とは別個の財産というべきであって,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。
   遺産分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
2 したがって,相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は,被上告人及び上告人らがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり,本件口座の残金は,これを前提として清算されるべきである。

最高裁平成24年12月21日判決は,以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
1 共有者の1人が共有物を第三者に賃貸して得る収益につき,その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち,事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないものである(最高裁昭和63年3月31日判決参照)。
2 そうすると,原審の判断中,本件将来請求認容部分には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,この点をいう論旨は理由がある。
   原判決中,本件将来請求認容部分は破棄を免れず,同部分に係る被上告人らの請求を棄却した第1審判決を取り消し,同部分に係る被上告人らの訴えを却下すべきである。
   なお,当該訴えは,上記のとおり不適法でその不備を補正することができないものであるから,口頭弁論を経ないで判決をすることとする(最高裁平成19年5月29日判決参照)。
1(1) 交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。