特別受益

第0 目次

第1   総論
第2の1 死亡保険金の受領は原則として特別受益に該当しないこと
第2の2 土地建物の無償使用と特別受益
第3   持ち戻し免除の意思表示
第4   具体的相続分についてその価額又は割合の確認を求める訴えは許されないこと
第5   特定の財産が特別受益財産であることの確認を求める訴えは許されないこと
第6   使途不明金

* 特別受益に関しては,相続人が「記憶」していることは多いですが,具体的な「記録」はないことが多いです。

第1 総論

1 法定相続分又は指定相続分(=被相続人が遺言で指定した相続分。民法902条1項)に,特別受益及び寄与分による修正をした相続分を具体的相続分といいます。

2(1) 被相続人の生前に,遺産の前渡しと評価できる程度に多額の贈与を受けている相続人(特別受益者といいます。)の具体的相続分は,法定相続分よりも少なくなります(特別受益。民法903条)。
   特別受益の例としては,①遺贈,②婚姻又は養子縁組のための贈与(例えば,持参金,嫁入り道具,支度金),及び③生計の資本としての贈与(例えば,住宅の購入資金,不動産の贈与,高額な学費,事業の援助資金)があります。
   しかし,単に生活費の援助を受けていたに過ぎない場合,扶養義務(民法877条)を履行してもらっただけですから,特別受益には当たりません。
(2) 具体的相続分を計算する前提となる特別受益財産の価額は,相続開始時の価額によって定まります(民法903条及び904条参照)。

3 具体的相続分を計算する前提となる特別受益財産の価額は,相続開始時の価額によって定まります(民法903条及び904条参照)。

4 被相続人が,特別受益に当たる贈与につき,当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(=持戻し免除の意思表示)をしていた場合,特別受益は具体的相続分の計算には影響しないことになります(民法903条3項)。

5 遺留分減殺請求により特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示が減殺された場合,持戻し免除の意思表示は,遺留分を侵害する限度で失効し,当該贈与に係る財産の価額は,上記の限度で,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されます(最高裁平成24年1月26日決定)。

6 特別受益とは相続人間の実質的公平を図るための制度ですから,持ち戻しの対象は,原則として相続人への贈与に限られます(民法903条)。
   もっとも,真実は相続人に対する贈与であるのに,名義だけを相続人の配偶者や子としたような場合,つまり,相続人への贈与(遺産の前渡し)と同視できる場合には持ち戻し対象になると解されています(弁護士による神戸相続相談所HPの「相続人の配偶者に対する生前贈与は特別受益に該当するか」参照)。

7 相続開始の時において,まだ保険事故が発生していない生命保険契約に関する権利の価額は,相続開始の時においてその契約を解約するとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額によって評価します(国税庁HPのタックスアンサー4660「生命保険契約に関する権利の評価」参照)。

第2の1 受取人指定の死亡保険金の受領は原則として特別受益に該当しないこと

〇受取人指定の死亡保険金の受領は原則として特別受益に該当しません(最高裁平成16年10月29日決定)。
   また,相続税との関係では,死亡保険金は,500万円×法定相続人の数が非課税となります(ライフネット生命HPの「受取時に損をしない「税金と生命保険」の関係」参照)。

〇保険金額が遺産の5割を超えた場合は通常,特別受益に当たるといわれています(外部HPの「生命保険金は特別受益か」参照)。

最高裁平成16年10月29日決定は以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行を追加するなどしました。)。
1(1) 被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人と指定して締結した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権は,その保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって,保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく,これらの者の相続財産に属するものではないというべきである(最高裁昭和40年2月2日判決参照)。
   また,死亡保険金請求権は,被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり,保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであるから,実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできない(最高裁平成14年11月5日判決参照)。
(2) したがって,上記の養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。
2 もっとも,上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は,被相続人が生前保険者に支払ったものであり,保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。
   上記特段の事情の有無については,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。

第2の2 土地建物の無償使用と特別受益

0 総論
   最高裁昭和47年7月18日判決は以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
①   建物所有を目的とする地上権は、その設定登記または地上建物の登記を経ることによつて第三者に対する対抗力を取得し、土地所有者の承諾を要せず譲渡することができ、かつ、相続の対象となるものであり、ことに無償の地上権は土地所有権にとつて著しい負担となるものであるから、このような強力な権利が黙示に設定されたとするためには、当事者がそのような意思を具体的に有するものと推認するにつき、首肯するに足りる理由が示されなければならない。
② ことに、夫婦その他の親族の間において無償で不動産の使用を許す関係は、主として情義に基づくもので、明確な権利の設定もしくは契約関係の創設として意識されないか、またはせいぜい使用貸借契約を締結する意思によるものにすぎず、無償の地上権のような強力な権利を設定する趣旨でないのが通常であるから、夫婦間で土地の無償使用を許す関係を地上権の設定と認めるためには、当事者がなんらかの理由でとくに強固な権利を設定することを意図したと認めるべき特段の事情が存在することを必要とするものと解すべきである。

1 被相続人の土地の上に相続人の一人である甲が建物を建築して無償で居住していた場合の取扱い(土地の無償使用と特別受益)
(1) 使用借権相当額は特別受益となる可能性があること
ア 使用借権は,借地権と異なり,借地借家法の適用がないため,第三者への対抗力等がありません。
   しかし,不動産取引との関係では,使用借権により他人所有の建物が建っている場合,土地の売却は困難になりますから,土地の価格が10%から30%ぐらい減少します(外部HPの「使用借権の評価」参照)。
   そのため,この減価分を使用借権相当額と考え,使用貸借の設定により,相続人の一人が使用借権相当額を特別受益として取得したと評価されることがあります。
イ ①使用借権の特別受益分+②使用借権による土地の減価分=③土地の時価となります。
   そのため,相続人である甲が無償使用していた土地を相続した場合,その土地を今まで使っていた相続人が利用し続けることから,使用借権相当額の特別受益は問題となりません。
ウ 相続税及び贈与税との関係では,借地権の設定に際し,その設定の対価として通常権利金その他の一時金を支払う取引上の慣行がある地域(以下「借地権の慣行のある地域」といいます。)においても,土地の価格の減少はありません(国税庁HPの「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」の(使用貸借による土地の借受けがあった場合)参照)。
(2) 地代相当額は通常,特別受益とはならないこと
   遺産分割では,他の相続人から,居住期間の地代相当額が特別受益であると主張されることがあります。
   しかし,地代相当額は日々,発生するものである点で「生計の資本としての贈与」に該当しませんから,このような主張は通常,認められませんと思われます(結論につき外部HPの「遺産の無償使用(使用貸借)は特別受益となりますか。」参照)。

2 被相続人の建物に相続人の一人である甲が無償で居住していた場合の取扱い(建物の無償使用と特別受益)
(1) 使用借権相当額は特別受益となる可能性があること
ア 相続人である甲が被相続人と同居していた場合,通常は被相続人の財産の減少がないため,通常は特別受益がありません。
   特に,同居しながら被相続人の療養看護をしていたような場合,利益を得たとはいえませんから,この点からも特別受益があるとはいえません。
イ 相続人である甲が被相続人と同居していなかった場合,使用借権相当額の特別受益が認められる可能性があります。
(2) 家賃相当額は通常,特別受益とならないこと
   遺産分割では,他の相続人から,居住期間の家賃相当額が特別受益であると主張されることがあります。
   しかし,家賃相当額は日々,発生するものである点で「生計の資本としての贈与」に該当しませんから,このような主張は通常,認められませんと思われます(結論につき外部HPの「遺産の無償使用(使用貸借)は特別受益となりますか。」参照)。

第3 持ち戻し免除の意思表示

1 一般論
   民法903条1項は,共同相続人間の実質的公平を図るべく,特別受益がある場合にはその持戻しをすることを原則としているのであって,同条3項の持戻免除の意思表示は例外規定です。
   そのため,被相続人が明示の意思表示をしていないにもかかわらず,持戻免除の黙示的意思表示があることを認定するためには,一般的に,これを是とするに足りるだけの積極的な事情,つまり,当該贈与相当額の利益を他の相続人より多く取得させるだけの合理的な事情があることが必要であると解されています(事案の結論としては,持ち戻し免除の意思表示を否定した東京家裁平成12年3月8日審判参照)。

2 持ち戻し免除の意思表示を認めた事例
(1) 東京高裁昭和51年4月16日決定は,長女が大学卒業の翌年頃より強度の神経症となり,その後入院再発を繰り返し,長女に対する株式贈与当時,40歳に達しながら結婚もできない状態で両親の人の元に生活していたこと,特に妻が長女の身の回りの世話をしていて,将来にわたってその状態を続けなければならないことが予測されていたため,会社の利益配当をもって長女及び妻の生活の安定を図ろうとして株式の贈与を決意したものであることが認められ,しかも,その際,既に他にしていた次女に対しても株式の贈与を行っていることにかんがみ,妻及び長女両名だけでなく,次女に対しても,暗黙のうちに持ち戻し免除の意思表示をしたと認定しました。
(2) 鳥取家裁平成5年3月10日審判は,被相続人の次男に対する土地建物の購入資金の生前贈与について,太平洋戦争後に復員の見込みのたたない長男の代わりに次男を跡継ぎに据えたところ,長男の復員という喜ぶべき結果が生じ,その反面,次男には出て行ってもらわなければならない申し訳なさから出た贈与であることを考慮して,暗黙のうちに持ち戻し免除の意思表示をしたと認定しました。
(3) 東京高裁平成8年8月26日決定は,長年にわたる妻としての貢献に報い,その老後の生活の安定を図るためにした土地の贈与について,妻には他に老後の生活を支えるに足りる試算も住居もないことが認められることを考慮して,暗黙のうちに持ち戻し免除の意思表示をしたと認定しました。

第4 具体的相続分についてその価額又は割合の確認を求める訴えは許されないこと

   具体的相続分は,遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって,それ自体を実体法上の権利関係ということはできませんから,共同相続人間において具体的相続分についてその価額又は割合の確認を求める訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法であるとされています(最高裁平成12年2月24日判決)。
    そのため,例えば,特別受益なり寄与分なりの関係で,被相続人の財産の半分が自分の持分であることの確認だけを求めるような訴えは許されないということです。

第5 特定の財産が特別受益財産であることの確認を求める訴えは許されないこと

1 民法903条は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に特別受益財産の価額を加えたものを具体的な相続分を算定する上で相続財産とみなすこととしたものであって,これにより,特別受益財産の遺贈又は贈与を受けた共同相続人に特別受益財産を相続財産に持ち戻すべき義務が生ずるものでもなく,また,特別受益財産が相続財産に含まれることになるものでもありません(最高裁平成7年3月7日判決)。
    つまり,持参金なり支度金なりは具体的相続分を計算する際に考慮されるにすぎないのであって,相続が発生した際,相続できる財産が全くない場合があるにしても,現実に相続財産に持ち戻す義務まで生じるわけではありません。

2   特定の財産が特別受益財産であることの確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法であるとされています(最高裁平成7年3月7日判決)。

第6 使途不明金

1 生前の被相続人の生活状況からすると,不自然な時期での多額の出金を使途不明金といいます。
   ただし,被相続人が自らの意思で一部の相続人に対して贈与したものであることが明らかになった場合,特別受益の話となります。

2(1) 使途不明金の対処方法については,「預金の無断引出に対し相続開始後に使える手続は」「立証すべき事柄を簡潔にまとめたPDF」が参考になります。
   預金の無断引き出しがあった場合,不法行為に基づく損害賠償請求又は悪意の不当利得を主張していくこととなります。
(2)  金員の着服を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において,右着服金員相当額の不当利得返還請求がその時効期間経過後に追加された場合,両請求が,基本的な請求原因事実を同じくする請求であり,着服金相当額の返還を請求する点において経済的に同一の給付を目的とする関係にあるなどといった事情の下においては,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の係属中は,不当利得返還請求権につき催告が継続し,不当利得返還請求の追加により,その消滅時効は,確定的に中断されます(最高裁平成10年12月17日判決)。

3(1) 名古屋家裁HPの「遺産の範囲は確定していますか?」には,預貯金が,被相続人の生前や死後に無断で解約や引き出しされた分については,以下の場合に限り,遺産分割手続で取り扱えると書いてあります。
① 自分が預貯金を解約等したことを認めていること
② 今でも一定の額のお金を預かっていることを認めていること
③ そのお金を遺産として分割の対象とすることに同意していること
(2) 共同相続の場合,預貯金を除く一般の可分債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されます(最高裁大法廷平成28年12月19日決定)。
   例えば,相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し,その帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けません(最高裁平成17年9月8日判決)。 
(3) 共同相続人の1人が,相続財産中の可分債権につき,法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には,当該権利行使は,当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから,その侵害を受けた共同相続人は,その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができます(最高裁平成16年4月20日判決)。

4 最高裁大法廷平成28年12月19日決定の裁判官木内道祥の補足意見には以下の記載があります(改行を行いました。)。
   遺産分割の審判においては,共同相続人間の実質的公平を図るために特別受益の持戻しや寄与分の考慮を経て具体的相続分を算定して遺産分割が実現されるところ,債権を広く一般的に遺産分割の対象としようとして具体的相続分の算定が困難となり,その他の相続財産についても遺産分割の審判をすることができず,相続財産に対する各相続人の権利行使が制約される状態が続くことは,遺産分割審判制度の趣旨に反する。
   したがって,額面額をもって実価(評価額)とみることができない可分債権については,上記合意がない限り,遺産分割の対象とはならず,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものと解するのが相当である。
   なお,民法903条,904条の2は,同法第5編第3章第3節「遺産の分割」の前に位置するが,遺産分割の基準である具体的相続分を算定するためのものであるから,遺産分割の対象とならない上記可分債権は,これらの規定にいう「相続開始の時において有した財産」には含まれないと解される。
1(1) 交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。