遺留分減殺請求と価額弁償

第1 総論

□ 被相続人が有効な遺言書を作成していたとしても,遺言内容が特定の相続人の遺留分を侵害している場合,当該相続人は,欠格事由に該当し,又は廃除されていない限り,遺留分減殺請求権を行使することができます。
   そのため,遺言者としては,遺留分権利者の遺留分に配慮した遺言書を作成する方が無難です(あわせて,遺留分権利者に特別受益がある場合,その内容も具体的に記載しておいた方が望ましいです。)。
   また,受益相続人としても,遺留分額に相当する価額弁償の支払資金を確保しておいた方が無難です。
□ 受益相続人において価額弁償の支払資金がない場合,以下のいずれかの選択を迫られるのが普通です。
① 遺留分権利者との話し合いにより遺留分減殺請求権を放棄してもらう。
② 特定の不動産を処分することで価額弁償の支払資金を捻出する。
③ 特定の不動産を共有とする。
④ 泥沼の遺留分減殺請求訴訟を甘受する。
□ 遺留分減殺請求権が行使された場合,受遺者及び受贈者は,その給付を現物により返還するのが原則であるものの,目的物の価額を弁償することによって目的物返還義務を免れることもできます(民法1041条1項)。
□ 価額弁償の意思表示をした場合,減殺請求によりいったん遺留分権利者に帰属した権利が再び受遺者及び受贈者に移転する反面,遺留分権利者は受遺者及び受贈者に対して弁償すべき価額に相当する額の金銭の支払を求める権利を取得します(最高裁平成9年2月25日判決)。
□ 受贈者又は受遺者は,民法1041条1項に基づき,減殺された贈与又は遺贈の目的たる各個の財産について,価額を弁償して,その返還義務を免れることができます(最高裁平成12年7月11日判決)。
   このことは,遺留分減殺の目的がそれぞれ異なる者に贈与又は遺贈された複数の財産である場合には,各受贈者又は各受遺者は各別に各財産について価額の弁償をすることができることからも肯認できるところです。
   そして,相続財産全部の包括遺贈の場合であっても,個々の財産についてみれば特定遺贈とその性質を異にするものではないから(最高裁平成8年1月26日判決),以上で説示したことが妥当します。
□ 遺留分権利者は,裁判所が受遺者に対し民法1041条の規定による価額を定めてその支払を命じることによって初めて受遺者に対する弁償すべき価額に相当する額の金銭の支払を求める権利を取得します(最高裁平成20年1月24日判決)。
□ 遺留分減殺請求を受けた場合,価額弁償の意思表示をした上で,代償金の額の確定を求める訴えを提起することができます(最高裁平成21年12月18日判決)。

第2 価額弁償における価額算定の基準時

□ 価額弁償における価額算定の基準時は,現実に弁償がされる時であり,遺留分権利者において当該価額弁償を請求する訴訟にあっては現実に弁償がされる時に最も接着した時点としての事実審口頭弁論終結の時であります(最高裁昭和51年8月30日判決)。

第3 遺留分の目的物を他人に譲渡した場合の取扱い

□ 遺留分減殺を受けるべき受贈者又は受遺者が贈与又は遺贈の目的物を他人に譲渡した場合,目的物の価額を遺留分権利者に弁償する必要があります(受贈者につき民法1040条1項,受遺者につき民法1040条1項類推適用(最高裁平成10年3月10日判決))。
    この場合において,弁償すべき額の算定においては,遺留分権利者が減殺請求権の行使により当該贈与又は遺贈の目的につき取得すべきであった権利の処分額が客観的に相当と認められるものであった場合,その額が基準となります(遺贈の場合につき最高裁平成10年3月10日判決)。

第4 価額弁償と譲渡所得

□ 土地の遺贈に対する遺留分減殺請求について,受遺者が価額による弁償を行った場合,結局,当該土地が遺贈により被相続人から受遺者に譲渡されたという事実には何ら変動がないこととなります。
   そのため,この場合,遺留分減殺請求が遺贈による当該土地に係る被相続人の譲渡所得に何ら影響を及ぼさないこととなります(最高裁平成4年11月16日判決参照)。

第5 訴訟における価額弁償の意思表示

□ 特定物の遺贈につき履行がされた場合に,民法1041条の規定により受遺者が遺贈の目的の返還義務を免れるためには,単に価額の弁償をすべき旨の意思表示をしただけでは足りず,価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をしなければなりません(最高裁昭和54年7月10日判決)。
   もっとも,遺留分減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的である不動産の持分移転登記手続を求める訴訟において,受遺者が,事実審口頭弁論終結前に,裁判所が定めた価額により民法1041条1項の規定による価額の弁償をする旨の意思表示をした場合には,裁判所は,同訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上,受遺者がその額を支払わなかったことを条件として,遺留分権利者の請求を認容されます(最高裁平成9年2月25日判決)。
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。