遺留分侵害額の計算方法

第1 遺留分侵害額の計算式

□ 遺留分侵害額は,(a)遺留分算定の基礎となる財産を確定し,(b)それに遺留分の割合を乗じ,(c)遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその額を控除して遺留分の額を算定した上で,(d)当該遺留分の額から,遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し,同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定します。
    つまり,遺留分侵害額=(a)遺留分算定の基礎となる財産×(b)遺留分割合-(c)特別受益財産+(d)相続債務の額ということです。
□ (a)遺留分算定の基礎となる財産の価額は,①相続開始時の積極財産+②贈与した財産の価額-③相続債務の式で算出されます(民法1029条1項)。
□ (b)遺留分の割合を乗じるというのは,遺留分権利者が複数人いる場合,総体的遺留分を各遺留分権利者の法定相続分の割合に従って配分することをいいます(最高裁平成8年11月26日判決)。
□ (c)特別受益額には遺留分権利者が受けた遺贈等が含まれます(最高裁平成8年11月26日判決)。

□ (d)の取扱いの例外として,相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ,当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合,遺留分侵害額の算定においては,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することはできません(最高裁平成21年3月24日判決)。

   そのため,遺言で債務を承継しないとされた相続人に対して相続債権者から請求があって債務を支払うこととなった場合,遺留分の問題ではなく,求償権(立て替えたお金を返してくれという権利です。)の問題となるに過ぎません。

□ 被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の額は,被相続人が相続開始時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え,その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し,これに法定の遺留分の割合を乗じるなどして算定されます。

   そして,遺留分の侵害額は,右のようにして算定した遺留分の額から,遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し,同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定されます(最高裁平成11年6月24日判決。なお,先例として,最高裁平成8年11月26日判決)。
□ 相続財産に関する費用(遺言執行に関する費用を含む。)は,相続財産の中から支弁されます(民法885条1項)。

  ただし,相続財産に関する費用は,遺留分権利者の贈与の減殺によって得た財産をもって支弁することを要しませんし(民法885条2項),また,これをもって遺留分を減ずることはできません(民法1021条ただし書)から,遺留分算定の基礎となる財産から控除することはできません(東京地裁平成22年7月26日判決)。

第2 持戻し免除の意思表示と遺留分

□ 民法903条1項の定める相続人に対する贈与(特別受益)は,当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(=持戻し免除の意思表示)を被相続人がしていた場合であっても,すべて民法1044条・903条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれます(最高裁平成24年1月26日決定)。

   そして,民法1030条の文言にかかわらず,相続開始前の1年より前になされた贈与であっても,(a)②の「贈与した財産の価額」に含まれます(最高裁平成10年3月24日判決)。

第3 特別受益と遺留分

□ 被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合に,当該贈与財産が金銭であるときは,その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価されることになります(最高裁昭和51年3月18日判決)。

   つまり,遺留分侵害額を計算する場合における,(c)特別受益財産の価額は,相続開始時の価額によって定まります(民法1044条・903条及び904条参照)。
□ 遺留分減殺請求により特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示が減殺された場合,持戻し免除の意思表示は,遺留分を侵害する限度で失効し,当該贈与に係る財産の価額は,上記の限度で,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されます(最高裁平成24年1月26日決定)。

    なお,持戻し免除の意思表示が上記の限度で失効した場合に,その限度で当該贈与に係る財産の価額を相続財産とみなして各共同相続人の具体的相続分を算定すると,上記価額が共同相続人全員に配分され,遺留分権利者において遺留分相当額の財産を確保し得ないこととなり,上記の遺留分制度の趣旨に反する結果となります。

第4 保証債務と遺留分

□ 保証債務(連帯保証債務を含む)は,保証人において将来現実にその債務を履行するか否か不確実であるばかりでなく,保証人が複数存在する場合もあり,その場合は履行の額も主たる債務の額と同額であるとは限らず,仮に将来その債務を履行した場合であっても,その履行による出捐は,法律上は主たる債務者に対する求償権の行使によって返還を受けうるものである。

   そのため,主たる債務者が弁済不能の状態にあるため保証人がその債務を履行しなければならず,かつ,その履行による出捐を主たる債務者に求償しても返還を受けられる見込みがないような特段の事情が存在する場合でない限り,民法1029条所定の「債務」に含まれないと解されています(東京高裁平成8年11月7日判決)。

第5 「相続させる」旨の遺言と遺留分

□ 遺留分減殺の対象となるのは,民法1031条によれば,遺贈及び民法1030条に規定する生前贈与と規定されています。
   しかし,「相続させる」旨の遺言についても,遺留分減殺の対象となり,遺留分減殺が問題となるときには,遺贈と同様に扱われます(東京地裁平成22年3月26日判決)。

第6 相続分の指定と遺留分

□ ①相続分の指定が,特定の財産を処分する行為ではなく,相続人の法定相続分を変更する性質の行為であること,及び,②遺留分制度が被相続人の財産処分の自由を制限し,相続人に被相続人の財産の一定割合の取得を保障することをその趣旨とするものであることに鑑み,遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正されます(最高裁平成24年1月26日決定。なお,先例として,最高裁平成10年2月26日判決参照)。

第7 遺留分減殺請求に関する設例

□ (設例)被相続人甲において,
① 相続開始時に積極財産として1800万円の土地を保有し,
② 相続開始時に消極財産として600万円の借金があり,
③ 相続人として嫡出子の乙,丙及び丁の3人がいて,
④ 乙に対し600万円の預金を,丁に対し300万円の預金を生前贈与していて,
⑤ 丙に対し,1800万円の土地を相続させるという遺言を残して死亡した場合,
乙,丙及び丁に対するそれぞれの遺留分侵害額は以下のとおりです。
→(a) 遺留分算定の基礎となる財産の価額は,1800万円(相続開始時の積極財産)+900万円(乙及び丁に生前贈与した財産の価額)-600万円(相続債務)=2100万円
(b) 乙,丙及び丁のそれぞれの遺留分の割合は,法定相続分3分の1の半分である6分の1
(c) 各人の遺留分侵害額
① 乙の遺留分侵害額
2100万円×1/6(遺留分の割合)-600万円(特別受益財産)+200万円(負担すべき相続債務の額。法定相続分に基づき,相続債務の3分の1)=-50万円となりますから,遺留分侵害額は存在しません。
② 丙の遺留分侵害額
2100万円×1/6(遺留分の割合)-1800万円(相続によって得た財産の額)+200万円(負担すべき相続債務の額。法定相続分に基づき,相続債務の3分の1)=-1300万円となりますから,遺留分侵害額は存在しません。
③ 丁の遺留分侵害額
2100万円×1/6(遺留分の割合)-300万円(特別受益財産)+200万円(負担すべき相続債務の額。法定相続分に基づき,相続債務の3分の1)=250万円となります。

   そして,丁が丙に対し遺留分減殺請求権を行使した場合,丁は,丙が相続した土地に対し,2100万分の250万,つまり,42分の5の共有持分権を有することになります。

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