遺言執行者

第1 遺言執行者の権利義務

□ 遺言者は,遺言で,一人又は数人の遺言執行者を指定できます(民法1006条1項)。
□ 遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条1項)。
□ 遺言執行者は,相続人に対し,以下の義務を負います。
① 遅滞なく,相続財産の目録を作成し,相続人に交付する義務(民法1011条1項)
② 善良な管理者の注意義務をもって,遺言を執行する義務(民法1012条2項・644条)
③ 遺言の執行に関する事務処理の状況を相続人に報告する義務(民法1012条2項・645条)
④ 遺言の執行に当たって受け取った金銭その他の物を相続人に引き渡す義務(民法1012条2項・646条)
⑤ 相続人に引き渡すべき金銭等を自己のために消費したときは,その消費した日以後の利息を支払う義務(民法1012条2項・647条)
⑥ 遺言執行事務が終了した場合,これを相続人に通知する義務(民法1020条・655条)

□ 遺言執行者に就任した場合,戸籍上の相続人(例えば,被相続人の戸籍を確認して初めて判明した,音信不通の非嫡出子)から請求があれば,他の相続人の同意の有無を問わず,当該相続人に対しても,財産目録の交付その他遺言執行者としての義務を履行する必要があります。
   実際,京都地裁平成19年1月24日判決(判例タイムス1238号325頁以下)は,遺言執行者の相続人に対する回答拒絶について,相続人に対する損害賠償義務を認めています。
□ 特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言がされた場合,遺言執行者があるときでも,遺言書に当該不動産の管理及び相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り,遺言執行者は,当該不動産を管理する義務や,これを相続人に引き渡す義務を負いません(最高裁平成10年2月27日判決)。
□ 不動産取引における登記の重要性にかんがみ,相続させる遺言による権利移転について対抗要件を必要とすると解すると否とを問わず,特定の相続人甲(相続させる遺言の名宛人)に当該不動産の所有権移転登記を取得させることは,民法1012条1項にいう「遺言の執行に必要な行為」に当たり,遺言執行者の職務権限に属します。
   もっとも,登記実務上,相続させる遺言については不動産登記法62条により特定の相続人甲が単独で登記申請をすることができるとされていますから,当該不動産が被相続人名義である限り,遺言執行者の職務は顕在化せず,遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しません(最高裁平成11年12月16日判決。なお,先例として,最高裁平成7年1月24日判決参照)。
□ 遺言執行者が,銀行に対し遺産である預金の受遺者への名義変更を求めたり,又は払戻を受けてこれを受遺者に交付したりする行為は,まさに遺言の内容を具体的に実現するための執行行為そのものであります。
    よって,包括遺贈の遺言について遺言執行者がある場合,相続人と同じく受遺者も相続財産の処分その他の執行を妨げる行為をすることができず,遺言執行者は受遺者の代理人とみなされますから,遺言執行者は,遺言執行行為として,銀行に対して預金の払戻請求をなす権限を有します(東京地裁平成14年2月22日判決)。
    その際,遺言執行者が,法定相続人の範囲や法定相続人間の紛議の有無に関わりなく,有効な遺言がなされたこと及び自らが遺言執行者として適法に選任されていることの根拠を示して,遺言執行としての預金の払戻請求をなした場合,銀行は払戻請求を拒むことはできません(東京地裁平成14年2月22日判決)。
□ 遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するが(民法1012条1項),遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないとされていること(民法1013条)に照らすと,遺言執行者の権限は,遺言の対象となった遺産に関するあらゆる行為について当然に及ぶものではなく,遺言の内容に従い,遺言執行者が執行すべきものとされている行為に限られるものと解されています(東京地裁平成21年10月16日判決)。

第2 遺言執行者と貸金庫

□ 金融機関によっては遺言執行者の権限を制限的に解釈した上で,貸金庫の開披等についてはすべての相続人の承諾書を要求してくることがありますから,円滑な遺言書の執行を確保するため,遺言書に以下の文言を入れておいた方がいいです。
    遺言執行者は,遺言者名義の預貯金債権及び有価証券の解約,名義変更及び払戻し,並びに遺言者名義の貸金庫の開披,内容物の受領及び貸金庫契約の解約,その他この遺言を執行するために必要な一切の権限を有する。
□ すべての相続人の承諾書を得られない場合であっても,公証役場の公証人に事実実験公正証書を作成してもらうことで,①貸金庫の開披,及び②在中物の内容を確認することはできます。

第3 相続人は遺言執行を妨げるべき行為をすることができないこと

□ 遺言書で遺言執行者として指定された者がいる場合(遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前をも含むことにつき最高裁昭和62年4月23日判決),相続人は,相続財産の処分その他遺言執行を妨げるべき行為をすることはできません(民法1013条)。
    なお,相続人が,民法1013条に違反して,遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し,又はこれに第三者のため抵当権を設定してその登記をしたとしても,相続人の当該処分行為は無効であり,受遺者は,遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして当該処分行為の相手方である第三者に対抗できます(最高裁昭和62年4月23日判決。なお,先例として,大審院昭和5年6月16日判決参照)。

第4 遺言執行者の代理人を専門家に依頼する予定がある場合

□ 遺言執行者は,やむを得ない事由がなければ,第三者にその任務を行わせることができないものの,遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは,この限りでないとされています(民法1016条1項)。
    そのため,後日,遺言執行者の代理人を専門家に依頼する予定がある場合,遺言書に以下の文言を入れておいた方がいいです。
    遺言執行者は,この遺言を執行するために必要がある場合,弁護士その他の専門家に対し,遺言執行事務の全部又は一部を委任することができる。

第5 その他遺言執行者関係

□ 遺言執行者に就任した場合,「亡甲野太郎遺言執行者甲野次郎預り金口座」という,遺言執行者名義の普通預金を開設し,預貯金解約金・有価証券売却代金など遺言執行行為により収集した金銭については,すべて遺言執行者名義の普通預金に入金することが望ましいです。
□ 遺言執行者に就任した場合,①遺留分減殺請求権の1年間の消滅時効(民法1042条前段)を進行させるとともに,②相続人による遺言執行者の職務妨害行為(例:動産類を勝手に処分したり,不動産について勝手に法定相続分の割合で相続登記をしたり,預貯金について勝手に法定相続分の割合で払戻しを受けたりする。)を防止する必要があります。
    そのため,①遺言執行者に就任するに際して,すべての相続人に対して就任通知を送る際,遺言の執行の妨害行為の禁止を定める民法1013条に言及した上で,財産目録のほか,遺言のコピーを送付しておいた方が無難ですし,②金融機関に対しても就任通知を送付し,相続人が勝手に法定相続分の割合で預貯金の払戻しを受けることがないように要請しておいた方が安心です。
□ 遺言者の所有に属する特定の不動産が遺贈された場合,目的不動産の所有権は遺言者の死亡により遺言がその効力を生ずるのと同時に受遺者に移転します。
   そのため,受遺者は,遺言執行者がある場合でも,所有権に基づく妨害排除として,右不動産について相続人又は第三者のためにされた無効な登記の抹消登記手続を求めることができます(最高裁昭和62年4月23日判決。なお,先例として,最高裁昭和30年5月10日判決参照)。
 □ 遺言者は,遺言執行者の報酬を定めることができます(民法1018条1項ただし書)ものの,遺留分を減ずることはできません(民法1021条)。
□ 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは,相続人を含む利害関係人は,その解任を家庭裁判所に請求できます(民法1019条1項,家事事件手続法別表第一の106項)。
□ 遺言執行者は,家庭裁判所の許可がない限り辞任できません(民法1019条2項,家事事件手続法別表第一の107項)。
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
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2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。