遺言及び死因贈与

第1 遺言総論

□ 遺言につき,普通は「ゆいごん」と読みますが,法律関係者の間では「いごん」と読むことが多いです。
□ 普通方式の遺言には,自筆証書遺言,公正証書遺言及び秘密証書遺言があります(民法967条)。
□ 遺言書が存在する場合,相続人は,遺言者が死亡した時点で(民法985条1項),遺産分割協議を経ることなく遺産を取得できることになります。
□ 自筆証書遺言の場合,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自署し,これに印を押さなければなりません(民法968条1項)。
    そのため,遺言書の一部分であっても,パソコンを利用して遺言書を作成した場合,遺言書は無効になります。
□ 遺言は,遺言者が単独でする必要があるのであって,2人以上の人が共同ですることはできません(民法975条)。
□ 遺言の解釈にあたっては,遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく,遺言者の真意を探究すべきものであり,遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても,単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく,遺言書の全記載との関連,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものです(最高裁昭和58年3月18日判決)。
□ 遺言書が2通以上ある場合,遺言書作成時に遺言者の判断能力が失われていたような場合を除き,最後に作成された遺言書が有効なものとなります(民法1023条1項参照)。
    例えば,平成21年1月1日付の公正証書遺言と,平成22年1月1日付の自筆証書遺言が存在する場合,後者の自筆証書遺言が有効です。

□ 被相続人は,遺留分に関する規定に違反しない限りにおいて,遺言書をもって,法定相続分と異なる相続分を定めることができます(民法902条1項)。
    ただし,遺留分を侵害する遺言であっても,いったんはその意思どおりの効果が生じるのであって,遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使した時点で,遺留分を侵害する限度で効力を失うことになります(最高裁平成13年11月22日判決)。
    例えば,被相続人甲が,特定の相続人乙に自宅の土地建物をすべて相続させたとしても,他の共同相続人丙が遺留分減殺請求権を行使した場合,法定相続分の半分の割合の持分が遺留分減殺請求権を行使した丙に移転する結果,自宅の土地建物は乙と丙の共有ということになります。
    そして,丙は後日,裁判所に対し,共有物分割の訴えを提起することができ(民法258条1項),最悪の場合,自宅の土地建物を競売にかけた上で,売却代金で分割させられることになります(民法258条2項)。
□ 遺言書が数葉にわたるときであっても,その数葉が一通の遺言書として作成されたものであることが確認されれば,その一部に日附,署名,捺印が適法になされている限り,右遺言書を有効と認めて差支えありません(最高裁昭和36年6月22日判決)。
□ 遺言者が,相続債務に関する相続分を指定したとしても,相続債務の債権者(=相続債権者)の関与なくなされたものにすぎませんから,相続債権者に対してまでその効力は及びません(最高裁平成21年3月24日判決参照)。

第2 相続させる遺言

□ 相続させる遺言に関しては,民法に明文の規定があるわけではありません。

   しかし,特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)は,特段の事情がない限り,当該不動産を,甲をして単独で相続させる遺産分割方法の指定(民法908条)の性質を有するものであり,これにより何らの行為を要することなく被相続人の死亡の時に直ちに当該不動産が甲に相続により承継されることになります(最高裁平成11年11月26日判決。なお,先例として,最高裁平成3年4月19日判決参照)。
□ 特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる旨の遺言により,相続人甲が被相続人の死亡とともに相続により当該不動産の所有権を取得した場合には,甲が単独でその旨の所有権移転登記手続をすることができ、遺言執行者は遺言の執行として右の登記手続をする義務を負うものではないとされています(最高裁平成7年1月24日判決)。

   具体的には,「相続させる」遺言をした場合,遺贈の場合と異なり,被相続人名義の登記済証(=権利証)及び遺言執行者の印鑑証明書付の委任状は不要となるのであって,相続人だけで不動産の名義を変更することができます。
□ 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言によって不動産を取得した者は,登記なくしてその権利を第三者に対抗することができます(最高裁平成14年6月10日判決参照)。

   つまり,相続の発生に伴う所有権移転登記をしないまま,被相続人から第三者への所有権移転登記がなされたとしても,受益相続人は,当該第三者に対し,登記なくして自己の所有権取得を対抗できるということです。

   ただし,余計な紛争につながりますから,速やかに所有権移転登記をすることが望ましいことに変わりありません。

第3 遺言の内容と異なる遺産分割協議

□ 遺言に基づく所有権移転登記等を行う前に,共同相続人全員の合意で遺言の内容と異なる遺産分割協議を成立させた場合,贈与税が発生することはありません(国税庁の質疑応答事例「遺言書の内容と異なる遺産の分割と贈与税」参照)。

   そのため,例えば,「被相続人甲は,全遺産を丙(三男)に与える旨の公正証書による遺言書を残していましたが,相続人全員で遺言書の内容と異なる遺産の分割協議を行い,その遺産は,乙(甲の妻)が1/2,丙が1/2それぞれ取得しました。」という事例では,相続人全員の協議で遺言書の内容と異なる遺産の分割をしたということは(これを遺留分の減殺請求とみるよりも),受遺者である丙が遺贈を事実上放棄し,共同相続人間で遺産分割が行われたとみるのが相当ですから,贈与税の課税関係は発生しません。
□ 共同相続人の一人に対する定期預金債権の特定遺贈の効力が,当該債権を除くその余の遺産についての分割協議の成立により失われたと解することはできません(最高裁平成12年9月7日判決)。

第4 死因贈与

□ 死因贈与とは,贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与契約をいい,相手方のない単独行為である遺贈とは異なります。
□ 死因贈与と遺贈とは,共に無償で財産を供与する行為であり,かつ,死亡によって本来は相続人に帰属すべき財産を相続人に帰属させないで相手方に供与するという点において共通性を有します(東京高裁平成15年5月28日判決)。

   そのため,民法554条は,死因贈与について遺贈の規定の準用を認めています。
□ 死因贈与に準用される遺贈の条文としては以下のものがあります。
① 遺言の効力に関する民法991条ないし993条及び995条ないし1003条
② 遺言の執行に関する民法1006条ないし1021条
③ 遺言の取消に関する民法1022条及び1023条(大審院昭和16年11月15日判決,及び最高裁昭和47年5月25日判決)
→ 死因贈与に民法1022条の適用があることの意味は,死因贈与は書面によるか否かを問わず取り消すことができるということです。
□ 死因贈与に準用されない遺贈の条文としては以下のものがあります。
① 遺言能力に関する民法961条及び962条
→ 死因贈与は満20歳になって初めて単独でできる(民法4条1項本文)のに対し,遺贈は満15歳になったら単独でできるということです(民法961条)。
② 遺言の方式に関する民法967条ないし984条(大審院大正15年12月9日判決,及び最高裁昭和32年5月21日判決)
③ 遺贈の承認・放棄に関する民法986条ないし990条(最高裁昭和43年6月6日判決)
□ 死因贈与契約は遺贈の規定に従うと定められている(民法554条)ことから,一般の贈与よりも更に拘束力の弱い契約となる反面,負担付贈与契約は双務契約の規定が適用されます(民法551条2項)から,逆に一般の贈与よりも拘束力の強い契約となります。
    そのため,負担付死因贈与契約の場合,撤回の自由は受贈者の負担が履行されていれば制限されます(最高裁昭和57年4月30日判決参照)。
    また,死因贈与契約を締結するに至った個別的事情によっても,撤回の事由が制限されることがあります(東京地裁平成22年2月18日判決参照)。
□ 遺言の効力発生以前の受遺者の死亡に関する民法994条が死因贈与に準用されるか否かについては,大審院昭和8年2月25日判決は準用を否定しているのに対し,東京高裁平成15年5月28日判決は準用を肯定しています。
□ 遺贈及び死因贈与のいずれについても,遺留分の侵害がある場合には遺留分権利者は受遺者又は受贈者に対して遺留分を保全するに必要な限度で遺留分減殺請求をすることができます(民法1031条)。

第5 特段の合意がある場合,委任契約は委任者の死後も存続すること

□ 本来,委任契約は特段の合意がない限り,委任者の死亡により終了します(民法653条1号)。
しかし,委任者が,受任者に対し,入院中の諸費用の病院への支払、自己の死後の葬式を含む法要の施行とその費用の支払,入院中に世話になった家政婦や友人に対する応分の謝礼金の支払を依頼するなど,委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては,委任者の死亡によっても当然に同契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨と解されています(最高裁平成4年9月22日判決参照)。
□ 委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては,委任者は,自己の死亡後に契約に従って事務が履行されることを想定して契約を締結しているのであるから,その契約内容が不明確又は実現困難であったり,委任者の地位を承継した者にとって履行負担が加重であったりするなど契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り,委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と解されています(東京高裁平成21年12月21日判決)。
つまり,委任者が生前に締結した委任契約を相続人が勝手に解除することは制約されているということです。
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3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。