遺産分割調停

第1 総論

□ 遺産分割協議というのは家庭裁判所を利用しない,共同相続人の間だけでの話し合いであるのに対し,遺産分割調停というのは家庭裁判所を利用した話し合いの手続です。
□ 共同相続人の間で遺産分割協議を成立させることができなかった場合,家庭裁判所に対し,遺産目録(家事事件手続規則102条1項)等を添付した上で,遺産分割調停を申し立てることになります(民法907条2項,家事事件手続法別表第二の12項)。
□ 遺産分割調停は別表第二の調停事件ですから,調停が不成立に終わった場合,自動的に家事審判に移行します(家事事件手続法272条4項)。

   家事審判というのは,当事者双方の言い分に基づいて,家庭裁判所が審判という形で判断を下す手続である点で,訴訟手続に準じる部分があります。
   そして,家事審判書には原則として,主文及び理由の要旨が記載されます(家事事件手続法76条2項)。

第2 前提問題としての遺産の範囲の確認

□ 以下の場合,遺産分割調停を成立させる前提として,遺産の範囲の確定のために,地方裁判所又は簡易裁判所に対し,遺産の範囲確認の訴訟を提起する必要があります。
    ただし,共同相続人の全員が,遺産分割調停において遺産の範囲を合意できた場合はこの限りでありません(この場合,調停期日において中間合意調書が作成されることがあります。)。
① 被相続人名義の財産について,実質的には相続人又は第三者に属するとの主張がある場合
② 相続人名義の財産について,実質的には遺産に属するとの主張がある場合
③ 第三者名義の財産について,実質的には遺産に属するとの主張がある場合

第3 遺産分割調停と被相続人名義の預貯金

1 平成28年12月19日以後の取扱い
□  共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となります(最高裁大法廷平成28年12月19日決定)。
   そのため,預貯金を遺産分割の対象とする旨の合意が共同相続人の間で存在しない場合であっても,遺産分割調停及び遺産分割審判を利用できることとなりました。

2 平成28年12月19日以前の取扱い
(1) 今でも変わらない取扱い
□ 平成19年10月1日の郵政民営化以前に預け入れられた定額郵便貯金は,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしない条件のものでした(当時の郵便貯金法7条1項3号)。
   よって,定額郵便貯金を遺産分割の対象とする旨の合意が共同相続人の間で存在しない場合でも,遺産分割調停はもちろん,遺産分割審判の対象となります(最高裁平成22年10月8日判決参照)。
   ちなみに,同趣旨の論点について,最高裁平成13年3月23日決定は,上告不受理決定を出していました。
 
(2) 今とは異なる取扱い
□ 被相続人名義の預貯金は,被相続人が死亡した時点で,当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有関係に立つものではないとされています(最高裁平成16年4月20日判決。なお,先例として,最高裁昭和29年4月8日判決及び最高裁大法廷昭和53年12月20日判決参照)。
   そのため,各共同相続人は単独で,相続分に応じて,被相続人名義の預貯金の払戻しを請求できることになりますから,預貯金を遺産分割の対象とする旨の合意が共同相続人の間で存在する結果,未分割の遺産が存在すると家庭裁判所に判断してもらえない限り,遺産分割調停を利用することができません。
□ 共同相続人の1人が,相続財産中の可分債権につき,法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には,当該権利行使は,当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから,その侵害を受けた共同相続人は,その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができます(最高裁平成16年4月20日判決)。
□ 性質上の可分債権も,債権者らの間で合意があれば不可分債権に転じるものと考えられ,預金払戻請求権を遺産分割の対象にする旨の合意は,同請求権を不可分債権に転じさせる趣旨を含むものと解されます(東京地裁平成21年12月17日判決)。
□ 現在の家庭裁判所における遺産分割の実務では,共同相続人全員の同意を前提として,金銭債権や相続開始後に遺産から生じた法定果実をも対象として遺産分割を行う運用がなされています。
   しかし,そのような運用においても,金銭債権や相続開始後に遺産から生じた法定果実を当然に遺産分割の対象とするものではなく,本来,共同相続人がその相続分に応じて分割債権として確定的に取得すべきものを,共同相続人全員の同意がある場合に限って,遺産分割の対象にできる扱いとしているにすぎません(名古屋高裁平成23年5月27日判決)。
□ 最高裁は,平成28年10月19日,被相続人の預貯金が遺産分割の対象となるかが争点となった審判の許可抗告審において,大法廷の弁論期日を開きました。
   最高裁が大法廷で弁論期日を開くということは,従来の判例を変更する可能性が高いということですから,被相続人の預貯金は遺産分割の対象とならないとしている従来の判例が変更されることが予想されていました。

第4 遺産分割調停と相続債務

□ 遺産分割調停で相続債務についても同時に解決することについて,共同相続人の全員が合意している場合,債権者に当然には対抗できないものの,共同相続人同士の内部関係では,遺産分割調停の対象に取り込めることになります(ただし,この場合,例えば,長男が賃貸マンションとマンションの建設資金のローンを引き受ける代わりに,残りの兄弟が一定の代償金を受領し,かつ,金融機関との関係で免責してもらうといった合意を金融機関との間で別途,成立させることができます。)。
    これに対して,遺産分割調停で相続債務についても同時に解決することについて,共同相続人の全員が合意できない場合,相続債務の内部負担を遺産分割調停の対象に取り込むことはできません。
    また,遺産分割審判に移行した場合,相続債務の内部負担について定めてもらうことはできません。
    相続債務について同時に解決できなかった場合,金融機関は,すべての相続人に対し,その法定相続分に応じて,例えば,賃貸マンションの建設資金を返済するように請求できることになります。
□ 相続債務が連帯保証債務である場合,その評価額を決めるのは非常に難しいです。
    つまり,①主である債務者が既に破産をしている場合,単なる借金として考慮すればいいものの,②主である債務者が現時点では破綻していないが,数年以内の間に破綻することが予想される場合,連帯保証債務の額をどこまで考慮すべきなのかは非常に悩ましい問題となります。

第5 遺産分割調停と代償財産

□ 被相続人名義の不動産や有価証券等の売却代金なり,預貯金解約金なりといった代償財産(=相続開始後に遺産が形を変えたもの)については,共同相続人の全員が遺産分割調停で解決することに合意しない限り,遺産分割調停の対象に取り込むことはできません(最高裁昭和54年2月22日判決参照)。
   遺産分割調停の対象に取り込めなかった場合,別途,代償財産を取得した相続人に対し,不当利得金返還請求訴訟を地方裁判所又は簡易裁判所に提起する必要があります。

    なお,このような訴訟では,相手方である相続人の取引銀行に対し,取引履歴が記載された取引明細表を提出するよう求める文書提出命令の申立てをすることにより,取引履歴を取り寄せられる場合があります(最高裁平成19年11月30日決定参照)。

第6 家庭裁判所調査官の同席

□ 以下のような場合,家庭裁判所調査官が調停期日に同席することがあります(家事事件手続法258条1項・59条参照)。
① 寄与分なり特別受益なりの主張があるものの,前提となる事実関係に争いがあったり,当事者間の意見の対立が激しく意見調整が困難であったりした場合
② 判断能力に問題のある当事者がいる場合
③ なかなか出頭しない当事者がいる場合

第7 調停条項案の書面による受諾

□ 遠隔の地に居住する等の理由により出頭することが困難であると認められる当事者が,あらかじめ調停委員会又は家庭裁判所から提示された調停条項案を受諾する旨の書面(=受諾書面)を提出し,他の当事者が期日に出頭して当該調停条項案を受諾したときは,当事者間に合意が成立したものとみなされます(家事事件手続法270条1項)。
    なお,調停条項案の書面による受諾は,離婚又は離縁についての調停事件で利用することはできません(家事事件手続法270条2項)。
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
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2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。