遺産分割協議一般の説明

第1 総論

□ 遺産の分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生じます(民法909条本文)。
しかし,第三者に対する関係においては,相続人が相続によりいったん取得した権利につき分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異ならないものですから,不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については,民法177条の適用があり,分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は,その旨の登記を経なければ,分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し,自己の権利の取得を対抗することができません(最高裁昭和46年1月26日判決)。
□ 特定の土地の分割方法を定めた遺言の存在を知らずにされた遺産分割協議の意思表示については,要素の錯誤がないとはいえないことがあります(最高裁平成5年12月16日判決参照)。
□ 被相続人のある遺産について,これが可分債権として当然に共同相続人らに分割帰属するか,遺産分割協議や調停・遺産等の分割手続を経なければ共同相続人らの取得が確定しないとみるかは,その遺産たる財産の性質如何によって決定すべきものですから,遺産分割手続を要するとした場合に共同相続人への帰属の確定が迂遠になるからといって,当該財産の性質を無視することは許されません(福岡高裁平成22年2月17日判決)。
□  共同相続された委託者指図型投資信託の受益権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはありませんし,共同相続された個人向け国債は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることこともありません(最高裁平成26年2月25日判決)。 

第2 遺産分割協議の要否

□ 被相続人の有効な遺言書がない場合,相続人が数人あるときは,遺産分割協議が成立するまで,預貯金等の当然に分割される相続財産を除き,相続財産は共同相続人が相続分に応じて共有している状態になります(民法899条)。
    ただし,死亡保険金,死亡退職金,弔慰金等は相続の開始により支払われるものであって,被相続人が生前から所有していたものではありませんから,民法上の相続財産にならない(ただし,相続税法上のみなし相続財産にはなります。)のであって,遺産分割協議を経ることなく,これらの財産を取得することができます。
□ 被相続人の有効な遺言書により,特定の相続人に相続財産が相続させられている場合,当該相続財産について遺産分割協議をする余地はありません。
    そのため,例えば,被相続人が,正常な判断能力を有する時期に,すべての財産を長男に相続させるという趣旨の遺言書を作成していた場合,遺産分割協議をする余地はないのであって,長男以外の相続人(ただし,兄弟姉妹は除く。)は,遺留分減殺請求権を行使することになります。

□ 預金債権その他の金銭債権は、相続開始とともに法律上当然に分割され,各相続人がその相続分に応じて権利を承継します(最高裁平成10年6月30日判決。なお,先例として,最高裁昭和29年4月8日判決参照)。

   これに対して金銭は,相続開始と同時に当然に分割されるものではなく,相続人には,遺産分割までの間は,相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して,自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできません(最高裁平成10年6月30日判決。なお,先例として,最高裁平成4年4月10日判決参照)。

第3 遺産分割協議の手順等

□ 遺産分割協議は,理論的には以下の手順を踏んで成立します。
① 相続人の確定
② 遺産の範囲の確定
③ 特別受益及び寄与分の確定
④ 遺産の評価額の確定
⑤ 具体的分割方法の確定
□ 以下の場合,相続人の確定についてそれぞれの手続が必要です。
① 相続人中に成年被後見人になっている人がいる場合,成年後見人を遺産分割協議に参加させる必要があります(民法859条1項参照)。
② 相続人中に行方不明者がいる場合,不在者財産管理人の選任が必要です(民法25条)。
③ 相続人中に未成年者がいる場合,親権者が共同相続人となっているときは,利益相反関係となる点で未成年者のための特別代理人の選任が必要です(民法826条,家事事件手続法19条・別表第一の65項)。
④ 相続人中に親権者がいない未成年者がいる場合,法定代理人である未成年後見人の選任が必要です(民法840条)。
⑤ 相続人中に相続開始後に破産手続開始決定を受け,破産管財人が選任されている場合,破産管財人を遺産分割協議に参加させる必要があります(破産法78条1項参照)。

第4 遺産分割協議の必要書類

□ 遺産分割協議を成立させるためには通常,以下の書類が必要になります(前述した①相続人の確定,②遺産の範囲の確定及び④遺産の評価額の確定の3点に関わります。)。
(1) 被相続人の出生時から死亡時までの改製原戸籍謄本,除籍謄本,戸籍付票
→ 改製原戸籍謄本により相続人をすべて確認し,除籍謄本により被相続人の死亡を証明し,戸籍付票により被相続人の生前の住所を証明するためです。
なお,相続人が両親又は兄弟姉妹となる場合,取得すべき戸籍はさらに増えます。
(2) 相続人全員の戸籍謄本,及び住民票又は戸籍付票
→ 相続人の生存及び住所を証明するためです。
(3) 相続人全員の印鑑証明書
→ 遺産分割協議書には相続人全員の実印が必要です。
(4) 不動産登記簿謄本(あれば)
→ 被相続人が所有していた不動産を確認するためです。
(5) 固定資産税・都市計画税納税通知書(あれば)
→ 被相続人が所有していた不動産のうち,未登記家屋の存在を確認するためです。
    ただし,不動産について相続登記の申請をする場合,市役所,区役所又は市税事務所で入手できる固定資産評価証明書が必ず必要になります。
(6) 預貯金通帳,定期預金証書のコピー(あれば)
→ 預貯金の存在を確認するためです。
(7) 株券・配当金支払通知書のコピー(あれば)
→ 株式の内容を確認するためです。
    ただし,手元にある上場会社の株券については,平成21年1月5日の株券電子化に伴い無効になり,株券の最終名義人の名義で信託銀行等に「特別口座」が開設されています。
(8) 取引明細書・特定口座年間取引報告書のコピー(あれば)
→ 株式の他,公社債,投資信託等を確認するためです。
(9) 保険証券のコピー(あれば)
→ 保険契約の内容を確認するためです。
(10) 車検証,自賠責保険証券,任意保険証券のコピー(あれば)
→ 車両番号,車名,初度登録年月等を確認するためです。
(11) その他遺産の内容が分かる書類(あれば)

第5 第三者に共有持分権を譲渡した場合の取扱い

□ 共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産について同人の有する共有持分権を譲り受けた第三者は,適法にその権利を取得することができ(最高裁昭和38年2月22日判決参照),他の共同相続人とともに右不動産を共同所有する関係に立つところ,右共同所有関係は民法249条以下の共有としての性質を有します。
   そして,第三者が右共同所有関係の解消を求める方法として裁判上とるべき手続は,民法907条に基づく遺産分割審判ではなく,民法258条に基づく共有物分割訴訟となります(最高裁昭和50年11月7日判決)。
□ 共有持分権を有する共同相続人全員によって他に売却された右各土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに,その売却代金は,これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り,相続財産には加えられず,共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割すべきものです(最高裁昭和54年2月22日判決。なお,先例として,最高裁昭和52年9月19日判決参照)。
□ 相続開始後,遺産分割が実施されるまでの間は,共同相続された不動産は共同相続人全員の共有に属し,各相続人は当該不動産につき共有持分を持つことになります(最高裁昭和30年5月31日判決)。
   よって,共同相続された不動産について共有者の1人が単独所有の登記名義を有しているときは,他の共同相続人は,その者に対し,共有持分権に基づく妨害排除請求として,自己の持分についての一部抹消等の登記手続を求めることができます(最高裁平成16年4月20日判決。なお,先例として,最高裁昭和38年2月22日判決,最高裁大法廷昭和53年12月20日判決参照)。

第6 相続等の場合における農地の取扱い

□ 以下の場合,農業委員会又は都道府県知事の許可がなくても所有権等を移転することができます。
① 相続による包括的な権利承継(最高裁平成13年7月10日判決)
② 遺産分割(農地法3条1項ただし書12号)
③ 離婚に伴う財産分与の調停又は審判(農地法3条1項ただし書12号)
④ 特別縁故者への財産分与(農地法3条1項ただし書12号)
⑤ 包括遺贈(農地法3条1項ただし書16号・農地法施行規則18条5号)
⑥ 共同相続人間でなされた相続分の譲渡(最高裁平成13年7月10日判決)
⑦ 時効取得(最高裁昭和50年9月25日判決)
□ 平成21年6月24日法律第57号(平成21年12月15日施行)により農地法が改正された結果,相続等により農業委員会等の許可を受けることなく農地の権利を取得した場合,農業委員会に権利取得の届出をする必要が生じるようになりました(農地法3条の3,農地法施行規則25条)。

第7 相続人の中に破産者がいる場合の相続登記

□ 相続人の中に破産者がいる場合の相続の登記申請は,「相続人の中に破産者がいる場合の相続の登記申請における相続を証する情報の取扱いについて」と題する通知(平成22年8月24日付法務省民二第2078号)によれば,以下の取扱いとなります。
① 相続人の一人が相続開始後に破産手続開始決定を受けた後,相続財産について他の相続人から遺産の分割に関する処分の調停又は審判が申し立てられ,破産者である相続人は当事者とならず,その破産管財人が当事者となって調停が成立し,又は審判がされた事案について,その相続を原因とする所有権の移転の登記の申請には,相続を証する情報として,戸籍謄本等の一般的な相続を証する情報の他,当該調停又は審判に係る調停調書又は審判書の正本の提供があれば足ります。
② 相続人の一人が相続開始後に破産手続開始決定を受けた後,破産者である相続人は当事者として参加せず,その破産管財人が破産法78条2項に基づく裁判所の許可を得て,遺産分割協議に当事者として参加していた事案について,その遺産の分割の協議の結果に基づく相続を原因とする所有権の移転の登記の申請には,相続を証する情報として,戸籍謄本,遺産分割協議書(共同相続人(破産者である相続人を除く。)のほか,破産管財人の署名押印がされているもの)等の一般的な相続を証する情報の他,当該裁判所の許可があったことを証する書面の提供があれば足ります。

第8 保険金受取人が保険事故の発生前に死亡していた場合の取扱い

□ 保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となります(保険法46条)。
□ 普通保険約款において,生命保険の保険金受取人の死亡時以後保険金の支払理由が発生するまでに保険金受取人が変更されていないときは,保険金受取人は死亡した保険金受取人の死亡時の法定相続人に変更されたものとする旨が定められているときは,右条項の趣旨は,死亡した保険金受取人の法定相続人又は順次の法定相続人で保険金の支払理由が発生した当時において生存する者を保険金受取人とすることにあります(最高裁平成4年3月13日判決)。
□ 保険金受取人の相続人とは,保険契約者によって保険金受取人として指定された者(=指定受取人)の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現に生存する者をいいます(商法676条2項に関する最高裁平成5年9月7日判決。なお,先例として,大審院大正11年2月7日判決)。
□ 保険法46条の適用の結果,指定受取人の法定相続人とその順次の法定相続人とが保険金受取人として確定した場合には,各保険金受取人の権利の割合は,民法427条の規定の適用により,平等の割合になります(商法676条2項に関する最高裁平成5年9月7日判決)。
□ 商法676条2項の規定は,保険契約者と指定受取人とが同時に死亡した場合にも類推適用されるべきものでありますところ,同項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」とは,指定受取人の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現に生存する者をいい(最高裁平成5年9月7日判決),ここでいう法定相続人は民法の規定に従って確定されるべきものであって,指定受取人の死亡の時点で生存していなかった者はその法定相続人になる余地はない(民法882条)。
   よって,指定受取人と当該指定受取人が先に死亡したとすればその相続人となるべき者とが同時に死亡した場合において,その者又はその相続人は,同項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」には当たりません。
   そして,指定受取人と当該指定受取人が先に死亡したとすればその相続人となるべき者との死亡の先後が明らかでない場合に,その者が保険契約者兼被保険者であったとしても,民法32条の2の規定の適用を排除して,指定受取人がその者より先に死亡したものとみなすべき理由はありません(最高裁平成21年6月2日判決)。
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。